恐怖の泉

実話系・怖い話「腸チフス」

腸チフス(ちょうちふす)は、サルモネラという腸内細菌に属するチフス菌による感染症です。
腸チフスとほぼ同様の感染症に「パラチフス」がありますが、こちらも同じくサルモネラに属するパラチフス菌による感染が原因です。

世界各地で発生している感染症ですが、とりわけ南アジア地域での発生が多いです。これは衛生環境に大きく左右されていて、改善すると腸チフスの感染拡大も少なくなる傾向にあります。
日本では海外渡航者による感染が毎年発生している為、注意が必要です。

また「発疹チフス」という名前も症状も同じような感染症がありますが、別の細菌による感染症です。

感染経路

感染経路は、菌に汚染された食べ物を口にしてしまう経口感染です。人にしか感染しません。
例え無症状でも菌は感染者の大便や尿の中に存在しているため、そこから容易に感染してしまいます。

手を洗わないでの調理や飲食に加え、汚染物に降りたハエが飲食物へ移動した際に菌を運び、感染する事もあります。
他にも保菌者との接触や性行為、下着の共有でも感染します。

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症状

原因菌が体内へ侵入すると、1~2週間ほどの潜伏期間を経た後に発病し、高熱、頭痛、筋肉痛や関節痛、腹痛、便秘または下痢、喉の痛みや咳、食欲の低下、肝臓や脾臓の腫れが起きます。

発熱は40度近くまで上昇して2週間ほど続くのが特徴で、その際に脈が遅くなり下痢も重なる事がある為、発病者は非常に疲労感を覚えます。
稀に高熱が出ると同時に胸や腹部、背中に赤い発疹が出る事もあります。
意識障害や難聴は重症化の兆しで、危険な状態です。腸から出血したり穴が開く場合もあり、予断は出来ません。
高熱の後も熱は上がったり下がったりを繰り返して症状は1ヶ月ほど続きますが、自然に回復していきます。

無治療や処置が遅れると菌の感染が臓器へと広がり、致死率は10~15%ほどにまで高まります。
また治ったと思っても、再発するケースが10%ほどの患者に起きます。

治療・予防方法

治療には抗菌剤の長期投与が有効で、適切であれば致死率は1%以下にまで下がります。
ですが近年では薬剤耐性菌の存在が明らかになっており、問題となっています。
菌が胆嚢へ感染した場合、稀ではありますが生涯に渡って保菌者となる事があります。感染者本人は健康そのものですが、他人へ感染を広げてしまう為、注意が必要となります。

チフス菌へのワクチンはありますが、日本では未認可です。一部の医療機関では接種する事が出来ますので、感染が危惧される地域へ長期滞在する場合は接種が望まれます。
パラチフス菌のワクチンはありません。

予防方法としては、食べ物は熱を加えた物を選ぶよう心掛けて下さい。
飲料は加熱されているか、衛生管理のしっかり成された物を選ぶ必要があります。氷にも注意が必要です。
そして食事の前には石鹸を使ってしっかり手を洗って下さい。

腸チフスのメアリー

20世紀初頭、ニューヨーク周辺では腸チフスが発生しており調査が行われた。
その結果、裕福な家庭に料理人として雇われていた「メアリー・マローン」という家政婦が居た家で、腸チフスが発生している事が判明。
メアリーは働く家を転々と変えながら、その行く先々で腸チフスを発生させていたのだった。

1907年に居場所を突き止められて身柄を確保されたメアリーは、検査の末に腸チフスの保菌者であると分かった。
ところがメアリー自身は健康そのもので、腸チフスを発病した事も無い為、裁判沙汰となる。
結果的にメアリーは「病気で無症状であっても他人へ感染させる恐れがある」という最初の事例となり、人々を震撼させた。

その後、メアリーは「2度と食品を扱う職業に就かない」「定期的に居場所を報告する」という約束で釈放されるが、残念ながらその約束は守られなかった。
1915年、産婦人科病院で腸チフスの集団感染が発生。25人が感染して2人が死亡した。
その病院では、行方知れずだったメアリーが調理人として偽名で働いていたのだった。
再び捕らえられたメアリーは、そこから23年間を隔離された病院内で過ごし、生涯を終えた。

彼女の死後、解剖によって胆嚢に腸チフスの病巣を発見。
これにより、腸チフスが胆嚢へ感染すると本人に症状が現れないまま、生涯に渡って菌を排出し続けると明らかになった。
メアリーの料理は美味しいと評判だったが、食品を扱う前にしっかりと手を洗ってさえいれば、この事件も起きなかったのかもしれない。

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